実話映画

 

実話映画の法律問題

1.はじめに

1999年にアメリカで劇場公開されたハリウッド映画には、実話に基づいて作られたものがいくつかあります。たとえば、ディズニー配給の「インサイダー」、ユニバーサル配給の「マン・オン・ザ・ムーン」「ハリケーン」、フォックス系配給で訴訟の渦中にある「ボーイズ・ドント・クライ」など。実話映画を制作・配給する場合、どういった法律問題が発生するのでしょうか?

2.実話映画

「インサイダー」 「LA コンフィデンシャル」でブレイクしたラッセル・クロウ演じる元タバコ会社幹部が、密告者となり、タバコの有害性について証言し、その証言によって州対タバコ会社との訴訟を和解に持ち込むことができた、という実話を映画化したものです。 タバコ会社、密告者となる元タバコ会社幹部、そしてCBSの「60分間」の番組プロデューサーなど実名で登場します。 元タバコ会社幹部は、雇用者であるタバコ会社との間で秘密保持契約を結んでいましたので、その秘密保持期間が終了するまで制作会社に情報を提供することはできませんでした。秘密保持契約が終了した後はどうでしょう。映画制作会社は元タバコ会社幹部からの情報に基づいて映画をつくることは可能となりますが、気をつけなければいけないのは、(1)名誉毀損、(2)プライバシー権、(3)肖像権などの問題です。

3.名誉毀損

他人の名誉を毀損するような内容を公表することによって損害が発生した場合に問題となります。 アメリカでは多くの実話に基づいた裁判ドラマがテレビで放映されています。OJシンプソン事件、ロングアイランドのロリータ殺人事件、ジョンベネ殺人事件など、実話に基づいたテレビ・ドラマ、映画化が目立ちます。知名度の高い実話をドラマ化、映画化をすることは、話題性が高く、集客力、視聴率につながり易いからといえましょう。実話映画にはいくつかの注意が必要です。まず、事実に基づいていること。事実とは公知な情報や、パブリック・ドメインに基づいていること、もしくは独自の調査やインタビューなどに基づいていることです。事実を裏付ける証拠も収集しておいた方が安全でしょう。第三者の資料を使用する場合には、その人からの許諾が必要となります。名誉毀損にならないよう、被害者や周りの人たちへの配慮が必要でしょう。

4.プライバシー権と肖像権

今まで閑静な生活を送っていた普通の人が、急に有名人となってしまう場合があります。有名人となってしまった人のプライバシーや肖像権はどのように守られるのでしょうか。 生存する人と死亡した人によってプライバシーや肖像権の扱いは異なりますが、実話映画に登場する人々からの書面による許諾が必要となるでしょう。許諾料は100ドルから数万ドルまで人によってまちまちのようです。実話映画は、原作権を取得するのに多くの人からの許諾、許諾料の支払いが必要となり、映画制作コストの高騰につながります。しかし、制作段階でクリアランスしておかないと、過誤保険に入ることが難しくなり、過誤保険に入れないと金融機関からの融資が受けられなくなり、完成保証ボンドがとれなくなり、また配給会社との契約も難しくなります。きちんとクリアランスをしておくことが、将来の訴訟トラブルから身を守るために大切です。

5.フランク・シナトラJR身代金誘拐事件の映画化

実話を映画化する場合、事件の加害者から許諾をもらうことができるでしょうか? コロンビア・ピクチャーズ(親会社はソニー・ピクチャーズ)は、今から36年前、当時19才だったフランク・シナトラJRを身代金目的で誘拐した犯人のひとりから、彼のストーリーを映画化する権利を150万ドルで買いました。 フランク・シナトラJRは、コロンビアと犯人のひとりであるバリー・キーナンを相手に、カリフォルニア州ロサンゼルス地方裁判所で、キーナンへの支払いをストップするよう求めて訴訟を提起しました。 ロサンゼルス地方・上訴裁判所ともに、フランク・シナトラJRの主張を認め、誰も自ら犯した犯罪で潤ってはならないこと、したがって、コロンビアはキーナンに150万ドルを支払ってはならないことを命じました。コロンビアはキーナンに対してお金を支払うことはできませんが、この裁判で実話を映画化することまでは禁じられていません。 「誰も自ら犯した犯罪で潤ってはならない」という法理は、「Son of Sam」と呼ばれ、アメリカでは多くの州が採択しています。「Son of Sam」は、1977年ニューヨークで起こった連続殺人事件の犯人のニックネームから来ています。Son of Samは、当時その連続殺人事件のストーリーを出版社に売り、高額な金額を受け取ったと言われています。その後、ニューヨーク州は「Son of Sam」を立法化し、誰も自ら犯した犯罪で潤ってはならないことを法律としました。ニューヨークの「Son of Sam」法は、広範すぎたという理由で、憲法上の表現の自由の観点から違憲判決を受けました。ニューヨーク州では立法修正をしましたので、「Son of Sam」法は生きています。 カリフォルニア州にも同様の「Son of Sam」法があります。有罪判決を受けた犯罪者は、その犯罪ストーリーを出版社、テレビ局、映画会社などに売った場合、そのお金を被害者に引き渡さなければならないという内容です。しかしながら、カリフォルニア州の「Son of Sam」の及ばなかった場合もあります。数年前、12才の女の子を誘拐殺人して、死刑を求刑されている犯人が、「ハード・コピー」というテレビ番組でインタビューを受け、インタビュー料として4,000ドルを受け取っていました。その犯人は更に犯罪ストーリーの代金として4万ドル請求して裁判を起こしました。これを知ったカリフォルニア州は、その犯人を相手取って、受け取ったお金を被害者に引き渡すよう求めて訴訟を起こしました。

6.権利関係をクリアしなければ訴訟のリスク

事実は小説よりも奇なり。犯罪実話には映画のネタになりそうな話題がたくさんあります。実話を映画化するためには、いろいろな法律問題をクリアにしていくことが必要です。権利関係がクリアされていない映画を配給しようとすると、訴訟というリスクが待っています。

 

映像新聞2000年1月31日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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