フィルム・ファイナンス

 

ハリウッドのフィルム・ファイナンスに新たな潮流


1.はじめに

1999年のアメリカ国内の興行収入は75億ドルを記録した。合計461本の映画が劇場配給された(MPAA資料)。そのうち、ハリウッドのメジャー・スタジオ(ディズニー、ワーナーブラザース、パラマウント、20世紀フォックス、ユニバーサル、ソニー・ピクチャーズ、MGM)は、159本の映画を配給し、興行収入の80%を占める。残りはミニ・メジャー(ドリームワークス、ニューライン、ミラマックスなど)もしくはスタジオから資金援助のないインディ映画である。 ハリウッド映画一本の制作費は平均5,150万ドルといわれている(MPAA資料)。映画を劇場配給するためには、さらにプリント代、広告宣伝費(P&A)がかかる。映画一本に使われるP&A費は、平均2,453万ドル。映画館で売られるチケット収入の約半分が配給会社に支払われる場合、一本の映画がブレイクイーブンするためには、平均で1億3,000万ドル以上のチケット収入を稼がなければならない計算になる。いったい何本の映画がアメリカ国内の劇場チケット収入だけで黒字になるであろうか。多くの映画は、海外配給、ビデオ配給、テレビ放映といった二次マーケットではじめてキャッシュ・フローを生み出すのである。映画一本が企画の段階から、実際に制作され、劇場にいたるまでの期間は、作品によってまちまちであるが、平均して約3年。キャッシュ・フローを生み出すまでの間のオーバーヘッド、銀行からの借入金利などを払い続けなければならない。その上、平行して行われる次の映画の企画、制作の費用もかかる。 映画はできあがっても、売れるかどうか読めないリスクの大きいビジネスである。近年、リスク・ヘッジを目的とする新しい形態の制作資金調達がハリウッドで行われ始めた。

2.衛星制作会社の台頭

1999年の大ヒット作となった「シックス・センス」のスパイグラス。「マトリックス」のビレッジロードショー。その他、ベル・エア、フランチャイズ、ミューチュアル、マンダレー、ビーコンといった企画、パッケージ、制作も行えば、資金調達も行い、配給、販売もこなすといった起業家的集団が活躍している。巨大化した官僚的スタジオと異なり、せいぜい20人くらいの人材で、すべてをこなすので決定が早い。元スタジオの幹部らが経営しているので、スタジオとの人脈もある。映画作りのノウハウもある。スタジオ内にオフィスをかまえ、オーバーヘッド・コストはスタジオが面倒みてくれる。スタジオがカバーしてくれない部分の費用は、海外から調達する。スタジオでは企画しにくい映画の制作資金調達も可能だ。ハリウッドで台頭しつつある衛星制作会社の幹部にお話を伺った。

3.スパイグラス

スパイグラスは、1998年の夏、ディズニーのスタジオ内に生まれた。その中核は、元モーガンクリークの幹部であるギャリー・バーバーと元キャラバン・ピクチャーズのロジャー・バーンバウンの二人。最近独立した元ディズニースタジオ会長のジョー・ロスと非常に親密だ。スパイグラスの資金源は、ディズニーはもちろん、そのほか、海外のパートナー数社の出資による。スカンジナビアのスペース、ポルトガルのムンド、そして日本の大手ビデオ会社であるポニーキャニオンなどがそれだ。映画の制作費のほとんどは出資会社と海外地域へのプリセールでまかなわれ、それらを担保に銀行からの借入を行なうが、「ギャップ・ファイナンス」と呼ばれる無担保での借入れは最小限に抑えている。ディズニーは、5年間で15本のアウトプット契約(予め決まった本数の映画提供を受ける契約)により、スパイグラスが供給する映画を、北米、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、ラテンアメリカで配給する。「シックス・センス」は、インド系の新人監督であるナイト・シャマラン自身の脚本だが、それに目をつけたアンブリンの創始者、キャサリン・ケネディーとフランク・マーシャルの夫婦プロデューサーがまずディズニーに持ち込み、その依頼を受けてスパイグラスが制作費を調達した。3,500万ドルという比較的低い制作費でつくられ、興行収入は全世界で6億5、000万ドルを記録した。スタジオ側としては、スパイグラスが制作費を調達した映画を配給するので、自社制作するのに比べリスクは少ない。制作費を低く抑え、多くのパートナーとリスクと利益を分け合う仕組みだ。スパイグラスの国際担当のアンドリュー・ラーナーは、「海外のパートナーは大切。(出資会社のひとつである)ポニーキャニオンとギャリー(バーバー)の付き合いは10年以上にもなる。」と語った。スパイグラスはポニーキャニオンに対しても、5年間に15本の映画を提供する。

4.ビレッジロードショー

これに対して、海外パートナーをもたないビレッジロードショーは、ワーナーブラザースが50%出資する衛星制作会社。もともとはオーストラリアの興行会社で、主にワーナーの映画を配給していた。近年、ワーナーの傘下で映画制作を始めた。ワーナーとの間ではネガティブ・ピックアップ契約(映画の完成を条件とする買い上げ契約。この契約を担保に銀行借入れができる。)があり、ワーナー内にオフィスをもつ。海外販売部門をもたず、銀行からの借入で映画を制作する。1998年夏、元ワーナー制作部門社長のブルース・バーマンを迎えてから、「アナライズ・ジス」「マトリックス」「ディープ・ブルー・シー」「スリー・キングス」とヒット作を生みつづけ、一年間に10億ドル以上の世界興行収入をワーナーにもたらした。制作ノルマも5年間20本から40本に増え、ワーナーにとって重要な存在だ。ブルースは「海外からの資金は魅力的だ。ニューリージェンシーも海外のパートナーのおかげで大きくなった。でも、ワーナーがオーストラリア、ニュージーランド、ギリシャ、シンガポール以外の海外配給をするし、ビレッジ・ロードショーはセールスをしなくていいので、今の関係でハッピーだ。」と言っている。「5年間に40本もの映画をどうやって企画するの?」という質問に対して、「ワーナーにいる間に準備した作品がたくさんあるので、企画には困らない」と答えた。すべての収益はひとつのポットに入れ、ワーナーとビレッジロードショーの配給経費、手数料その他の経費を差し引いた後、儲けを折半する。衛星制作会社の利益率はとてつもない数字になりそうだ。 5.最後に 日本はバブル時代、配給会社、家電会社、商社から個人投資家までがハリウッドの映画ビジネスに投資した。バブルが崩壊した後、ハリウッドに着実に足跡を残したもの、消えてしまったもの、さまざまである。スパイグラス、ビレッジロードショーなどの衛星制作会社も、ヒット作ひとつをとりあげて勝敗を決めることはできまい。映画ビジネスは水物だから。しかし、ハリウッドがコンテンツ供給をリードしつづけることは間違いないであろう。スタジオという巨大なシステムのなかで、しなやかに動くことができる起業家集団。映画作りのビジネスは時代にマッチしたダイナミックでクリエイティブな展開を続けていく。

映像新聞2000年5月29日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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