配給契約

 

1.はじめに

映画は売らなければならない。映画は配給され、観客がお金を払ってくれてはじめて収入となる。そして製作費を回収することができる。完成した映画はもちろん、製作段階で売りに出される映画の配給契約の法律問題について解説する。

2.契約書の種類

「映画の配給権を買う」とは、「特定の地域で、限定された期間、特定のメディアで、ある映画を配給し、利用することの許諾(ライセンス)を受けること」を意味する。ライセンス契約とも言われる。許諾者はライセンサーと呼ばれ、通常、映画の著作権をもち、配給権をライセンスする権限をもっている。許諾を受ける者は、ライセンシーと呼ばれ、契約で合意された権利のライセンスを受ける。ライセンシーは、ライセンサーに対して、ライセンスの対価を支払う。ライセンスが切れると、ライセンスされた権利はライセンサーにもどる。したがって、ライセンスは著作権の譲渡ではない。

これに対して、セールス・エージェント契約というのがある。海外での販売に不慣れだったり、社内に販売担当者がいない場合によく利用される。エージェントは、ライセンサーに代わって、映画の配給権を買ってくれる相手を見つけ出し、ライセンス交渉をしてくれる。ライセンス契約と違う点は、セールス・エージェント契約を結んだだけでは、ライセンス契約とはならない。エージェントが斡旋したライセンシーとの間でライセンス契約を結ぶことによって初めて、映画は配給される。エージェントの手数料は、ライセンス契約金のパーセンテージで支払われ、成功報酬が慣行だ。

3.ライセンス契約

ライセンス契約ではどういった点について合意することが重要か。

まず、契約当事者の特定が必要だ。誰がライセンサーとなり、ライセンスを許諾するのか。本当にライセンスする権限があるのかどうか、権利関係をチェックすることが重要。権利関係はチェーン・オブ・タイトルと呼ばれ、人間の過去帳のように、ひとつひとつが繋がっていないといけない。原作権や脚本権がきちんとクリアされているかどうか、パブリック・ドメインの場合、配給される地域でも同様かどうか、過誤保険に加入しているかどうか、のチェックもした方が良い。もし、チェーンが切れている場合には、配給することは訴訟リスクだ。

第二に、ライセンスは独占的かどうか。独占でないと、ライセンサーは、ライセンシーの競争者に同じ内容のライセンスを与えることができるので困る。独占的ライセンスを受ける場合、サブライセンスすることができるかどうかも合意しておく。映画配給会社が他社に、ホームビデオやテレビ放映権をサブライセンスする場合に必要だ。

第三に、ライセンスを受ける地域。映画を利用することのできる地域を指定する。言語の指定も必要。吹き替えと字幕か、英語のオリジナルも含まれるのか、合意する。

第四に、ライセンス期間。独占的なライセンスを受ける場合、支払ったライセンス料と経費を回収し、利益を生み出すまでにどのくらいの期間が必要かといったビジネス判断でライセンス期間を決める。ライセンスがいつ始まるのか規定することも重要。契約書にサインしても、実際に映画を上映できるまで時間がかかるからだ。また、ライセンス期間を更新できるかどうかについても合意する。

第五に、ライセンスを受けた権利の内容。たとえば、映画をオールライツでライセンス受ける場合、劇場と劇場でない場所での上映権、ホームビデオの権利、テレビ放映権が含まれる。その他の二次使用として、サウンドトラックの権利、マーチャンダイジングの権利、出版権、映画の続編を優先的に買う権利を含むのか、といった点も合意する。ホームビデオの権利には、DVDやビデオ・オン・デマンドが含まれるかどうか注意が必要。

また、近年話題となっているインターネットで配信する権利についても明記する。インターネットでの権利で問題となるのは、地域を限定できないことだ。ライセンス契約で「日本」を地域指定しても、ボーダーレスなので、ライセンスを受けていない地域にまで及ぶ。したがって、インターネットでの権利を限定する方法としては、言語指定を行ってライセンスすることが重要だ。ソニー・ピクチャーズは他のスタジオに先立ち、自社映画をインターネット上でストリーミング上映することを公式発表した(11月3日、ロサンゼルス・タイムス誌)。いずれは、ソニープレイステーションでも映画を見ることができることになるそうだ。

新たなメディアが、新たな収益源を生む。したがって、ライセンス契約を交渉する場合、どこまでのメディアが含まれているのか明確にすることが重要だ。

第六に、留保される権利を明確にする。ライセンスされていない権利は、すべてライセンサーに帰属する。どこまでライセンスされているのか、双方に誤解が生じることが多いので、契約書で明確にする必要がある。ライセンス契約には、ホールドバックとよばれる規定がある。たとえば、ハリウッド映画の場合、アメリカで劇場公開されるまで、日本での劇場公開はできないといった条件がつくことが多い。もしくは、テレビ放映権だけライセンスする場合、テレビ放映する前に、誰かがビデオ販売してしまうと困る。契約で、テレビ放映した後数ヶ月間はビデオ販売をしてはならないといった条件をつけることができる。契約は交渉次第。

第七に、ライセンス料。映画の場合、ミニマム・ギャランティ(MG)とロイヤルティの組み合わせが多い。MGの支払い時期、支払い方法。回収の仕方についても合意する。映画を配給する場合、ライセンサーによっては、どのくらいの規模で劇場公開するのか、いくらぐらいの宣伝広告費、マーケティング費を使ってくれるのか、契約で要求してくる場合もある。映画の配給はお金がかかる。ライセンス料は、どのくらいの興行収入が見込めるかを想定しながら、ビジネス判断しなければならない。

ロイヤルティで注意を要するのは、ネット収益の規定の仕方。どこまで控除することができるか。また、クロスがあるかどうか。オールライツでライセンスを受ける場合、ライセンシーとしては早くMGや配給にかかった費用を回収したい。劇場でこけた場合、ホームビデオやテレビ放映からの収入で回収したいと思うのは当然。もし、クロスが許されていないと、回収できなくなる危険がある。ライセンシーとしてはクロスしたい。ライセンサーはクロスしたくない。地域が数カ国に及ぶ場合は、もっと複雑だ。地域間でのクロスができるかどうかも重要だ。

4.最後に

映画は収益を生み出して、はじめてビジネスとなる。どういった権利がライセンスされているのか、新しい技術やメディアでの映画の利用はどうか、合意内容が適正に契約に反映されているかどうか、常に重要な課題だ。

 

映像新聞2000年11月27日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 

 
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