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MGM対ソニー:著作権・商標権侵害訴訟
1.007対007
ピアス・ブロスナン主演の「トゥマロー・ネバー・ダイ」は007シリーズの第18作目。007シリーズは、1962年の第1作「ドクターノオ」から始まり、「ロシアより愛をこめて」「サンダーボール作戦」「ゴールド・フィンガー」「ダイヤモンドは永遠に」「私を愛したスパイ」「オクトパシー」「殺しのライセンス」など、過去35年間に、30億ドル以上の収益を上げてきました。公式認定の007シリーズに関する権利を保有するMGMにとって、007とは息の長いドル箱フランチャイズ映画です。
そのMGMに対して、ソニー・ピクチャーズ(「ソニー」)が、新しい007シリーズを作るという大胆な発表をしました。映画のタイトルは「ウォーヘッド2000AD」。1999年公開予定。ソニーは「インディペンデンス・ディ」「ゴジラ」を制作したローランド・エメリクとディーン・デブリンと007映画制作の交渉を始めていました。
昨年11月、MGMはソニーを相手に著作権・商標権侵害訴訟を提起し、007映画の制作をストップさせるための仮処分を申請しました。 そして今年7月、ロサンゼルス連邦地裁は、MGMの主張を全面的に認め、ソニーの007映画制作にストップをかけました。
2.マクロリー対フレミング
ソニーが007映画を制作できると主張している根拠とは何でしょう。その発端は、ジョン・マクロリーにあります。彼は1940年代後半、イギリスで映画の助監督をしていました。彼がプロデュース・監督・脚本をした映画がたまたまジェームス・ボンドの生みの親であるイアン・フレミングの目にとまりました。その頃のフレミングはジェームス・ボンドの映画化を図りたいと思いながらも、なかなか思うようにいかず、焦っていました。フレミングは、マクロリーに、いっしょにボンド映画の脚本を書かないかと申しで、マクロリーは監督も兼ねるという約束で引き受けました。1959年から1960年の間に、フレミングとマクロリーは、脚本家ウィッテンガムといっしょに「サンダーボール作戦」の脚本を完成させました。三者合作の「サンダーボール作戦」は、フレミングのボンドとは全く別個の作品でした。
「サンダーボール作戦」は映画化されず、フレミングは、1961年に、これを単独で小説化して、発表しました。フレミングは、共同著作者であったマクロリーとウィッテンガムを無視したため、彼らから訴えられました。1963年、フレミングはマクロリーに対して、「サンダーボール作戦」のオリジナルと、フレミングとマクロリーがいっしょに作成した10作のあらすじ、脚本、そしてこれに基づいて映画を制作する権利を与えることで和解しました。
マクロリーはボンド・シリーズの制作にかかっていたカビー・ブロッコリ(現在のイオン・プロダクション)とヘンリー・サルツマンと共同で、「サンダーボール作戦」を制作することになります。その時、マクロリーは収益の20%をもらい、その代わり、将来10年間、ボンドに関する権利を放棄することを約束しました。1965年、ショーン・コネリー主演の「サンダーボール作戦」はアメリカだけで6、300万ドルの劇場収益を上げる大ヒットとなりました。
3.マクロリーの権利
そして10年後。マクロリーは、「サンダーボール作戦」のリメイク映画を制作始めました。タイトルは、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」。制作配給会社は、ご本家MGMではなく、ワーナー・ブラザース。この時ワーナー・ブラザースで「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」の制作に携わっていたのが、ソニー・ピクチャーズの現社長、ジョン・キャリー。彼がすでにジェームス・ボンドを退任したショーン・コネリーを呼び寄せ、非公式の007映画を制作した訳であります。MGMとフレミングのエステイトは、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」の制作をストップさせるため、訴訟に訴えましたが、敗訴に終わりました。そして、1983年「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」は公開され、当時1億ドルを超える全世界の劇場収益(アメリカ国内で5、300万ドル)を記録しました。同じ年に、MGMはロジャー・ムーア主演の007映画「オクトパシー」を公開し、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」に対抗しました。「オクトパシー」は、全世界で1億8、300万ドルの劇場収益を報告しています。
ジョン・キャリーは、その後MGMの社長となり、1995年にはピアス・ブロスナンをボンドに登用した「ゴールデン・アイ」を成功させ、経営難のMGMの復興に貢献したのであります。その功績を認められてか、1996年ソニー・ピクチャーズから声がかかり、現在に至っている訳です。キャリーは、ボンド・シリーズのノウハウを知った最適任者ということでしょうか。
4.MGM対ソニー
ソニーは、マクロリーのジェームス・ボンドに関する権利は無制限であると解釈しています。つまり、ワーナー・ブラザースの時のように、「サンダーボール作戦」のリメイクに限定する必要はない。MGMとフレミングらの権利に抵触しない限り、新しいプロットで、新しいボンドを作り出し、フランチャイズ化することが可能だと考えています。
これに対して、MGMは、ジェームス・ボンドは、MGMとダンジャック(イオン・プロダクションの前身)が保有するキャクラターであり、ボンドというキャクラターは著作物・商標として保護されていると、ソニーの主張に真っ向から対立していました。
5.仮処分決定
ロサンゼルス連邦地裁は、ソニーとマクロリーには007映画を制作する権利がないことを認定し、007映画の制作をストップするよう仮処分決定を出しました。マクロリーがフレミングから譲り受けた著作権は、アメリカでは最初の28年間で消滅していること、007に関する著作権はフレミングの遺族がもっていることを認定しました。 アメリカの著作権法では、1978年以前に発行された著作物の保護期間は、発行日から28年、更新すればさらに47年となっています。更新をすることができるのは原作者。原作者が更新手続きをする前に死亡した場合は、原作者の遺族のみが更新することができます。
フレミングは更新手続きを行う前に死亡し、フレミングの遺族がアメリカでの著作権の更新を行いました。したがって、ソニーはフレミングの遺族からライセンスを受けない限り、007映画を制作することができないのです。
著作権は目に見えない権利。だれが本当の権利者なのかきちんと調べないと、大変な法律問題となってしまいます。
映像新聞 1998年9月28日号掲載 (C) 1999
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