パブリックドメイン

 

必要な権利関係のクリアランス 

1.保護されない著作物 

「パブリック・ドメイン」とは著作権として保護されていない著作物をいいます。だれも独占権を主張できない著作物ですので、だれでも、勝手に、無償で、許可なく、その著作物を利用できます。(注:ただし、その著作物に関連して発生した人格権、商標権、肖像権等ついては本稿では割愛します。)。 ディズニー・アニメは、パブリック・ドメインものの焼き直しで有名。ピーターパン、人魚姫、白雪姫、シンデレラ、ジャングル・ブック、不思議な国のアリス、ジャックと豆の木、など。原作がパブリック・ドメインですと、原作者から権利を取得する必要がなく、クリアランスや使用料はゼロ。昔からのお話ですと知名度もあります。でも、著作物がパブリック・ドメインになっているかどうか一見では分かりにくいものです。  例えば、「ハッピー・バースディ」ソング。アメリカでは、「ハッピー・バースディ」ソングは著作権で保護されています。レストランで「ハッピー・バースディ」ソングを唱ってお祝いするためには、アスキャップ(ASCAP)というロイヤルティを徴収する団体に使用料を支払わなければなりません。もし、使用料を支払わないで、勝手に唱ってしまうと、レストランのオーナーは権利者の弁護士から手紙をもらうことになるでしょう。 パブリック・ドメインはみんなのもの。アメリカではどうやって著作物がパブリック・ドメインとなるのでしょうか?   

2.著作権期間が満了したとき 

アメリカ著作権法(1976年法)は、原則として、1978年1月1日以後に創作された著作物について適用されます。アメリカでの保護期間は、創作者の生存期間プラス50年。死亡した日から50年は著作権が存続します。職務著作のように、誰かに雇われて、その人のために創作した場合には、発行の時から75年もしくは創作の時から100年のいずれか早い時期で著作権は消滅します。 複雑なのは、1978年1月1日以前に発行された著作物です。1909年法は、発行の年から28年間を保護期間としており、更新することによって更に47年延長されます。最長75年の保護期間が与えられています。アメリカでは、1923年よりも前に公開された映画や、出版された小説などはパブリック・ドメインとなっていると考えて差し支えないでしょう。また、更新をしなかったため著作権が消滅したものもあります。ハリウッドでは、著作権が細切れに譲渡されたり、ライセンスされたり、創作者が更新する前に死亡したりして、映画の著作権がきちんと処理されていなかったため、著作権が消滅した名画が数多く存在します。気をつけなければいけないのは、アメリカで著作権が消滅していても、アメリカ以外の国では権利が生きている場合です。また、映像の著作権が消滅しても、映像以外の著作物、例えば、ミュージック、が著作権保護されている場合です。ジェームズ・スチュアート主演の映画「すばらしきや人生」は更新を忘れてしまったためパブリック・ドメインとなってしまいましたが、その中で使われている音楽の著作権は弁護士たちによってきちんと更新されましたので、映像そのものはパブリック・ドメインですが、サウンド・トラックを変えずに映画を許可なくテレビ放映したり、ビデオ販売することはできません。  

3.著作権表示を忘れた場合

 1909年法によると、1978年1月1日以前に著作権表示(マルシーマーク)をつけないで発行した著作物は、その場でパブリック・ドメインとなります。創作者が法律を知らなかったため、またはうっかり著作権表示を忘れて発行したため、パブリック・ドメインになってしまうのは酷でした。そこで、1976年法は著作権表示なしに発行した場合の救済を定めましたが、やはり著作権表示を忘れると第三者との関係でいろいろなトラブルが起こります。 日本で著作権表示なしに公開してしまった映画は、アメリカでパブリック・ドメインとなってしまうのかどうかという問題点については、「著作権表示」をご参照ください。 

4.シャーロック・ホームズ

 シャーロック・ホームズの生みの親、サー・アーサー・コナン・ドイルは、1930年に亡くなるまで、60作のシャーロック・ホームズのストーリーを出版しました。本国イギリスでは、著作権の保護期間は原作者の死後50年間となっております。ですから、イギリスでは、シャーロック・ホームズに関する著作権は消滅しています。アメリカではどうでしょう?アメリカでの著作権保護を受けることができるのは、1923年以後に出版されたシャーロック・ホームズに限られます。60作中のほとんどの作品がアメリカではパブリック・ドメインとなっています。では、だれでも、サー・アーサー・コナン・ドイルの財産管理人の許可なく、シャーロック・ホームズの映画を作ったり、テレビ放映することができるでしょうか? サー・アーサー・コナン・ドイルにはレディ・ブロメットという遺族がおります。レディ・ブロメットは、父親であるサー・アーサー・コナン・ドイルが作り出したシャーロック・ホームズというキャラクターに関するアメリカでの権利を独占していると主張しています。もし、誰かがシャーロック・ホームズの映画、テレビ番組を制作しようとする場合、映画一本につき、25,000ドルから35,000ドルのライセンス料を要求します。もし、これに応じないと彼女の弁護士から訴状を受け取ることになるそうです。以前、タイバーンというプロダクション会社がレディ・ブロメットの許可を得ずに、「シャーロック・ホームズ」の映画を制作し、アメリカで劇場公開したことがあります。レディ・ブロメットはタイバーンのアメリカでの配給会社を相手方として提訴しました。タイバーンはその配給会社を守る義務があるにも拘わらず、手間取ったため、その配給会社はレディ・ブロメットとの間でライセンスを受けることで事件を解決しました。 ハリウッドを騒がせていた盗作騒ぎ訴訟「アミスタッド」。被告であるドリームワークス、スピルバーグ監督は、「アミスタッド」はパブリック・ドメインの史実に基づくものであり、原告側の小説を盗作したものではないと主張していました。仮処分が認められなかったので、「アミスタッド」は劇場公開されましたが、この盗作騒ぎで作品は有名になったようです。この著作権侵害訴訟は今年2月に和解しました。 パブリック・ドメインであるにも拘わらず、ライセンスを受けなければ訴えられてしまうというのは、困ったことです。では、どうするのが良いのでしょうか。まず、パブリック・ドメインかどうかをクリアランスする必要があります。アメリカにはクリアランスを専門とする弁護士がおります。そして、その弁護士からオピニオン・レターを作成してもらいます。過誤保険に入ることも重要です。 

5.ミッキー・マウス

 ディズニーのミッキー・マウスが初めてアニメに登場したのは1928年。今から70年前。ミッキーは当年70歳なのです。デビュー作品は、「蒸気船ウイリー」。この映像に関する著作権はこのままでは2003年に消滅します。ディズニーのアニメの中では、既にパブリック・ドメインとなっているものがあります。例えば、古いバージョンの「不思議の国のアリス」や「シンデレラ」などはもう既に消滅していますし、または今年で著作権が消滅します。となると、だれでも、勝手に、ディズニーからのライセンスなしに、パブリック・ドメインのキャラクターや映像を利用することができるということになってしまいます。キャラクターが命のディズニーにとっては一大事です。ミッキー・マウスという商標は登録されていますし、保護されていますので、商標としての使用はできません。しかし、誰かがパブリック・ドメインの映像をビデオ販売したり、テレビ放映したり、イメージをTシャツにプリントして売ったりすることは自由なはずです。 ディズニー、その他のスタジオ、アメリカ映画協会は、議会に対して著作権の保護期間を20年間更に延長するよう働きかけ、この法案は上院・下院を通過し、クリントン大統領がサインしました。(http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query)。   

6.さいごに 

エンターテインメントは目に見えない権利ビジネス。その基本は著作権。だれが、どういった権利を、どの期間、どの地域で、どのメディアでもっているのか調べることが大切です。パブリック・ドメインはみんなのもの。自由に使えるはずの著作物です。誰かが、パブリック・ドメインに新たな価値を加えた場合には、二次的著作物となり、新たな著作権が生まれます。権利関係をきちんとしてから、ビジネスしましょう。 

映像新聞1998年11月23日号掲載 (C) 1999 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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