映画の収支決算

 

リスクを分散し最大の利益:増える共同製作・配給

1.はじめに

1998年のアメリカでの映画劇場収益(ボックス・オフィス・レシート)は、68.6億ドルと予想されています。この数字は、1997年の62.4億ドルを10%上回っています。1998年は「タイタニック」のようなメガヒットはありませんでしたが、「アルマゲドン」「メリーに首ったけ」「ラッシュ・アワー」「ウォーターボーイ」「ディープ・インパクト」「プライベート・ライアン」といったヒット作に恵まれた年でした。 ヒット作で潤ったスタジオ。ヒット作を作ることのできなかったスタジオ。メジャースタジオの一期一憂する一年でした。 ハリウッドでは、「10作映画を作って1作当たれば良し」と言われています。1作のヒット映画で、残りの失敗をカバーする。映画は水物で、鳴り物入りの映画ですら、公開するまで興行成績は分からないのが現状です。 高騰し続ける制作費。原作権の取得、脚本費、スターのサラリー、映画は制作費の他に、映画をマーケットするのに必要な宣伝広告費、プリント代の諸経費等、実際に映画が劇場で公開されるまでの経費は膨大な金額となります。 ギャンブルに近い映画ビジネス。アメリカのスタジオはどうやってリスクをヘッジし、収益を上げているのでしょうか。

2.ボックス・オフィス・ヒット

アメリカでは、映画が劇場で上映されると、ボックス・オフィス・レシートといわれる収入が発生します。ボックス・オフィス・レシートはチケット収入のことで、上映者(映画館)とディストリビューターとの間で契約に基づいて分配されます。前評判の高い映画ですと、上映後数週間のチケット収入の90%がディストリビューターへ、10%が上映者へという割合で分配されます。徐々に80/20,70/30,60/40,50/50といった割合になっていきます。通常、ディストリビューターはチケット収入の50%を、上映者は残りの50%と劇場で販売するポップコーン、ホットドック、飲み物などのコンセッションからの収入の全額をキープします。 アメリカで劇場公開された映画は、次にホームビデオ(レンタルもしくはセル)、ペイテレビ、ケーブルテレビ、ネットワーク、シンジケーション(再放送マーケット)、マーチャンダイジング、国外のマーケットといった二次マーケットへと販路を広げていきます。

3.グロス収益

アメリカでの劇場上映収益、国外での劇場上映収益、ホームビデオからの収益、テレビ放映権のライセンス収益、劇場以外での上映収益(フライト中、機上で見る映画のこと)、マーチャンダイジングからの全収益の合計を「グロス収益」といいます。スタジオ/ディストリビューターは、まず、グロス収益から税金、グロス収益参加者への支払いを行います。ハリウッドのトップスターや監督らの中には、アドバンスの他に、グロス収益から真っ先に支払いを受ける場合があり、「グロス収益参加者」と呼ばれます。トップスターの監督、俳優ですとグロス収益の10〜20%を受け取ります。映画が当たれば、スターも儲ることになります。スタジオとしては、高騰する制作費を抑え、上映成績が悪かった場合のリスクを考えた苦肉の策です。

4.ディストリビューション手数料

スタジオ/ディストリビューターは、グロス収益から税金とグロス収益参加者に対する支払いをした後、次に、ディストリビューションにかかった費用を差し引きます。ディストリビューション費とは、プリント代、広告宣伝費、ギルドへの支払い、編集費、保険、弁護士費用、ロイヤルティなどの映画にかかった費用をいいます。そして更に、ディストリビューション手数料として、グロス収益の30〜40%を差し引きます。 アメリカの劇場で上映された映画は、上映後約6ヶ月後にホームビデオとなり店頭に並びます。そして、ペイテレビ、ネットワーク、シンジケーション、海外のマーケットからの収益が入ります。ハリウッド映画からの収益の約55%はホームビデオからの収益です。また、ネットワークへの販売も近年伸びています。 スタジオは、テレビのディストリビューションの手数料として、ネットワークの場合には収益の10%、シンジケーションの場合には35〜40%、外国でのテレビの場合には45〜50%を差し引きます。 スタジオにとって、映画作りとは、お金の収支決算ビジネスなのです。

5.収益と経費

次にご紹介するのはアメリカの某スタジオが算出したハリウッド映画の平均的な収支決算です。1億ドルのボックス・オフィス・ヒットを記録したハリウッド映画が、どの部分で、いくら収益を上げているのか、どういった経費をいくら使っているのかをご覧ください。 

アメリカでのボックス・オフィス・ヒット1億ドルの収支決算表 

収益 

国内での劇場配給収益 45,000,000ドル
国外での劇場配給収益 30,000,000ドル
国内でのホームビデオ収益 21,175,000ドル
国外でのホームビデオ収益 11,050,000ドル
国内HBOからの収益 10,125,000ドル
国内ペイテレビからの収益 1,200,000ドル
国外ペイテレビからの収益 4,425,000ドル
国内ネットワークからの収益 5,000,000ドル
国内シンジケーションからの収益 3,300,000ドル
国外無料テレビからの収益 10,000,000ドル

合計

141,275,000ドル

経費

国内での劇場配給経費(プリント、広告宣伝費、その他のディストリビューション費) 25,600,000ドル
国外での劇場配給経費(プリント、広告宣伝費、その他のディストリビューション費) 17,000,000ドル
国内でのホームビデオ経費 4,775,000ドル
国外でのホームビデオ経費 2,325,000ドル
その他の2次マーケット諸経費 200,000ドル

合計

49,900,000ドル

収益ー経費=91,375,000ドル(但し、この金額には、制作費、税金、グロス収益参加者への支払い、オーバーヘッドなどを含みません。)
          
6.ハリウッドの傾向

映画ビジネスはリスクの多いビジネス。高騰する制作費、広告宣伝費。ヒット作に恵まれないスタジオの経営陣交代劇。華やかな銀幕の裏で展開されるビジネス・ディール。 制作費を低予算に押さえたインディー系映画に投資するのも一つのリスク回避の方法として考えられています。通常、インディー映画は制作費自主調達をしており、できあがった映画を試写してピックアップすれば、先行投資の危険を回避することができ、また、完成作品を買うわけですから、リスクを最小限に抑えることができます。映画が完成する前に投資するやり方として、アメリカのスタジオが行っているのは、ネガティブ・ピックアップという方法です。ネガティブ・ピックアップとは、スタジオが制作段階では出資をせず、完成した時点で、ネガと交換にアメリカ国内ので配給権の対価として、ライセンス料を支払うという方式です。プロダクション会社は、スタジオとの間の契約書を担保に、銀行から融資を受けたり、出資者を募って制作費をファイナンスします。この方法のメリットは、スタジオ側は制作費を先払いしなくてすむこと。プロダクション会社は映画の著作権を保有できることです。 近年スタジオ間では、スプリット・ライツという共同制作・共同配給の形態を多くとるようになっています。ワーナーブラザースとユニバーサル間のスプリット・ライツで「ツイスター」が公開されて以来、高騰する制作費、リスクの折半の可能なスプリット・ライツが大流行です。「タイタニック」「エアー・フォース・ワン」「ディープ・インパクト」「プライベート・ライアン」などがスプリット・ライツです。その他、アメリカ国外での権利をプリセールすることにより、制作費の融資を受ける方法もとられています。

7.最後に
リスクは多いけれどもセクシーなハリウッド・ビジネス。特に、映画産業の後退している日本では、ハリウッドは映画の主な供給源となっています。映画の劇場収益はスタジオ全体の収益の約20%と、そんなに大きな位置を占めていませんが、劇場という窓口での収益成績で、ペイ・テレビ、ネットワーク、ケーブル、シンジケーションといったテレビ市場での値段が決められます。 スタジオという多角メディアをもつコングロマリット・ビジネス。リスクを分散しながら、最大限の利益を上げています。ハリウッド映画ビジネスは、これからもエンターテインメントビジネスの中枢となっていくのでしょう。  

映像新聞2000年8月28日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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