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何故映画は赤字ビジネスか
1.はじめに
どんなにハリウッド映画が人々の心をときめかせようと、ハリウッドとは、弁護士、公認会計士、ビジネス・スクール出身者たちが損益計算書を分析しながら、どうやって映画で儲けるかを計算する冷厳なビジネスの世界であることに変わりない。
スタジオには、四つの帳簿があると言われている。株主用、投資家用、税務署用、そして内部用。なぜ、このように何種類もの帳簿が必要なのであろうか。ある訴訟を通して、スタジオの帳簿のからくりが明らかにされた。
2.星の王子、ニューヨークに行く
1988年に、ピュリツァー賞受賞のコラムリストであるアート・バックワルドはパラマウントを相手に、契約違反に基づく損害賠償請求の訴訟を提起した。それは、自分のアイデアが流用されたから、その分のロイヤルティを支払えというものだった。ハリウッドにはよくある話だ。これに対して、パラマウントは頑固としてその流用を認めず、結局裁判に至った訳だ。何故この裁判が重要かというと、今まで個人がスタジオを相手に訴訟を起こすということは前例のない闘いだからだ。通常、誰も、スタジオと争ったりしない。大勢の弁護士を社内に抱え、さらに資金豊かなスタジオを相手に戦うということは、映画業界で生きている人にとっては、死刑宣告を意味する。しかしジャーナリズムで生きているバックワルドにとっては、スタジオは脅威でなかった。
3.バックワルド 対 パラマウント
ことの発端は、1982年、バックワルドとその友人でプロデューサーのアラン・バーンハイムが、一緒にコメディー映画用のあらすじを作ったことに始まる。そのあらすじをパラマウントのエグゼクティブに提供した。よくある話だ。そのあらすじとは、あるアフリカの富豪の王子がワシントンDCを訪問中に、自国でクーデターが起こり戻れなくなり、そうこうしているうちに、好きな女性ができ、その女性を連れて帰国し、王族の地位を取り戻すといストーリーだった。
パラマウントは、エディ・マーフィー主演の映画としてプロジェクトを組み、バックワルド及びバーンハイムと契約を結んだ。その契約によると、パラマウントがバックワルドのストーリーに基づいて映画を制作した場合には、バックワルド及びバーンハイムに対して、26万5,000ドルとネット収益の19%を支払うことを合意した。ネット収益が大きければ大きいだけ、バックワルドらの取り分も増えるという訳だ。
パラマウントは32万5,000ドルをかけ「King For A Day」というタイトルで映画をディベロプしたが、途中で断念した。これもよくある話。映画会社では、ディベロップメントの途中で棚上げになる企画が山ほどある。バックワルドとバーンハイムはパラマウントでの製作をあきらめ、ワーナーブラザースにこのプロジェクトを持ち込んだ。
ところが、驚くことが起こった。パラマウントは1987年、エディー・マーフィー原作・主演のコメディー映画「Coming To America」(日本語名タイトル:「星の王子、ニューヨークに行く」)を制作して、劇場公開した。この映画とは、エディー・マーフィー扮するアフリカの王子が花嫁を探しにニューヨークに来て、様々な冒険をして、花嫁を連れて帰国するというバックワルドのストーリーをそのままいただいたような筋書きだった。ワーナーブラザースとしては二番煎じはできないので、バックワルドらのプロジェクトをあきらめた。踏んだり蹴ったりだ。憤慨したバックワルドらは、パラマウントを相手に訴訟を提起した。
「星の王子、ニューヨークに行く」は、1988年の興行成績第3位の1億2,800万ドル以上の興行収入を記録し、1990年の海外からの興行収入は4億ドルの大ヒット映画となった。
4.2つの争点で裁判
ロサンゼルス上級裁判所では、2つの争点について争われた。一点は、パラマウント側に契約違反があったかどうか。もし、「Coming To America」が原告らの原作に基づいて制作されたものであれば、被告パラマウントは、その契約通りに、原告らにロイヤルティを支払う義務がある。もう一点は、パラマウントは「いくら」原告らに支払うべきかだ。
第1の争点については、原告らのあらすじが「Coming To America」と酷似していることや、パラマウントの幹部らがあらすじを読んでいたこと、その他の事実関係から、原告らの主張を認めた。
「いくら」支払うべきかという争点について、パラマウントは不思議な帳簿を持ち出してきた。「星の王子。。」のネット収益は、1,498万9,043ドルの赤字だから、お支払いはできません。4億ドルの興行収入で、ネット収益が赤字とはこれ如何に?
5.契約条項は無効の判決
ハリウッドでは、著名な脚本家、監督、俳優はスタジオと対等にビジネスができる。しかし、新人やバーゲニング・パワー(交渉力)をもたない人がスタジオと交渉する場合、スタジオ側が用意した一方的な契約条件をのまざるを得ない慣行だ。「ネット収益」に関する契約規定は、全てのメジャー・スタジオが同じような内容をもった一方的な条項であり、交渉の余地のない契約内容と言われている。裁判所は、バックワルドらの言い分を認めて、パラマウントに対して、90万ドルの損害賠償を支払うよう命じた。
裁判所が無効と判断した「法外なネット収益規定」とは、 1)エディー・マーフィーは、自分のプロダクション会社をパラマウント内にかまえ、パラマウントからその運営資金をもらっていた。パラマウントはそのプロダクション会社に対して支払った資金を経費計上し、さらにその15%をオーバーヘッドとして二重計上していた。
2)パラマウントは、支払っていない広告費の10%を経費として計上していた。 3)映画の75%はパラマウントのスタジオの外で撮影されたにも拘わらず、パラマウントは、制作費の15%をスタジオのオーバーヘッドとして計上していた。また、撮影終了後、パラマウントは、監督のジョン・ランディスと主演のエディー・マーフィーにそれぞれグロス収益の10%、15%を支払う約束をし、そのグロス収益の支払いを制作費に上乗せすることにより、映画の損益分岐点がますます遠ざかるように操作した。
4)スタジオは自分の制作費に高利な利息を請求するとともに、支払いは元本には充当されず、元本はずっと未払いになるように操作した。 ロサンゼルス上級裁判所の判決を不服としたパラマウントは上訴したが、ちょうどパラマウントはバイアコムに買収された直後で、新しい経営陣は原告らと非公開の金額を支払うことで和解した。和解金よりも、帳簿のからくりをばらされた痛手の方が大きかったのでは。
6.フォレスト・ガンプ
「フォレスト・ガンプ」は、日本でも「ガンピズム」という言葉が流行ったアカデミー賞受賞トム・ハンクス主演の映画。1994年に劇場公開され、世界中からの興行収入は6億6、100万ドルを記録した。パラマウントが発表したネット収益はマイナスとなっている。
| 劇場収益 |
19,100万ドル |
| 経費:広告、宣伝費、プリント費 |
7,350万ドル |
| パラマウントのディストリビューション費 |
6,200万ドル |
| トム・ハンクスとロバート・ゼメキス監督への支払い |
6,200万ドル |
| 映画制作費 |
5,000万ドル |
| 利息 |
600万ドル |
| 利息・経費合計 |
25,350万ドル |
| ネット収益 |
ー6,250万ドル |
7.JFKー ギャリソン・クラス訴訟
ジム・ギャリソンとは、1963年に起こったケネディ大統領暗殺事件を調査したニューオリンズの検察官。彼によると、ケネディ大統領暗殺は単独犯ではなく、共謀によるものであるという推定の基に、その調査結果をまとめて「On
the Trail of the Assassin」(日本語名:「JFK−ケネディ暗殺犯を追え」)という本を出版した。オリバー・ストーン監督はこれを映画化するため、ギャリソンから権利を買い取った(1989年)。ギャリソンは30万ドルの前金と5%のネット収益をもらう約束だった。映画は「JFK」というタイトルで、ワーナー・ブラザースが配給した。世界中で1億5、000万ドルの興行収入があったと報告されている。にも拘わらず、一向にロイヤルティが入ってきない。故ギャリソンの子供たちはエステイトとして、映画会社を相手に提訴した。
8.さいごに
映画が儲かっているのがばれると、投資家や、俳優、脚本家などからよってたかって収益を分配しろ、と言われかねない。映画がどのくらい儲かっているのか知りうるのは、映画会社の内部のごくわずかな人のみ。今まで誰も見ることのできなかった帳簿のからくりが裁判で明らかになったという訳だ。
映像新聞2000年8月28日掲載
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