コングロマリオット化

 

懸念されるコンテンツ独占

1.コンテンツとメディア

1990年の映画収益は、アメリカ国内での収益が67億ドル、海外からの収益が60億ドルとされています。過去10年間の間に急成長を遂げ、1997年には、アメリカ国内で映画収益は127億ドルとなり、海外からの映画収益は108億ドルを記録しています。 ハリウッド映画産業の発展の背景には、スタジオ経営の変遷があります。劇場映画を社内で制作し、自社劇場で上映するという古いシステムからの脱皮です。戦後のテレビの普及で、人々が映画館に足を運ばなくなった時代。ホームビデオの登場とテレビと映画の共存。その他の映画の二次利用として、キャラクター・グッズ、サウンド・トラック、テーマパーク、出版事業への拡張、ネットワークやケーブル・テレビへの参入、電話会社との提携など、スタジオ経営そのものが多角化しています。スタジオの多角化の歴史は、合併の歴史です。

2.タイムワーナーの誕生

出版会社であったタイム社は、ケーブル会社であるHBOとシネマックスを合併することにより、メディアの多角化を図りました。タイム社が次にターゲットとして狙ったのは、コンテンツをもったワーナー・コミュニケーション社。パラマウント社からの横やりを押さえて、1989年に140億ドルという価格で吸収合併したのは記憶に新しい出来事です。買収によるキャッシュ・フロー不足に耐えきれず、東芝、伊藤忠をパートナーとして迎えることなります。1993年には、地域電話会社のUSウエストとの間でビジネス提携をします。1995年、コンテンツとケーブル会社を傘下にもつターナーを吸収し、ライブラリーの充実とウインドウを拡張します。現在、タイムワーナーは、6,000の映画タイトル、28,500のテレビ番組、7,100のアニメ番組のライブラリーをもち、これらのコンテンツを傘下のTNT,TBS,HBO,シネマックス、WBネットワーク、カーチューン・ネットワークといったウインドウで再利用し、収益を上げています。 タイムワーナーはコンテンツとウインドウの他、音楽、ケーブル・オペレーション、「タイム」「フォーチュン」「ライフ」「スポーツ・イラストレーテッド」といった出版業務、テーマパーク、キャラクター・グッズ、コミック雑誌、プロレス、野球チームなどを保有し、世界最大のコングロマリットを誇っています。 

3.垂直合併の問題点

垂直合併が盛んなのは、タイムワーナーだけではありません。フオックスを傘下にもつニュース・コープ、ABCネットワークを吸収合併したディズニー、パラマウントを買収したバイアコムなどもビジネスのコングロマリット化を進めています。バイアコムは今月、CBSの合併を発表しました。ストック・スワップの形態での合併価格は345億ドルと最大級。バイアコムは、映画スタジオ(パラマウント)、ネットワーク(CBS)、ビデオレンタル店(ブロックバスター)、出版社、ケーブル会社(MTV、ニケラデオンなど)、プロダクション会社(スペリング・エンターテインメント)といったコンテンツとウインドウを傘下に置くことになります。 ひとつの会社がコンテンツとウインドウをおさえると、どういったことが起こるでしょうか。不公正な取引、マーケット参入障壁が生まれ易くなってきます。 たとえば、ワーナーブラザースが制作し配給する映画やテレビ番組が、ワーナーの傘下にあるネットワークやケーブル会社に優先的にライセンスされるとしたら、どうでしょう。ディズニーの子会社であるミラマックスの映画が、ABCで優先的にテレビ放映されるとしたらどうでしょう。身内会社間で、ライセンス料や期間などの条件が不適切に決めれてしまいます。垂直合併は、自給自足を保護するため、コンテンツを提供する側の自由競争を損ねると懸念されます。その懸念は巧妙なやり方で起こっています。 

4.「ホーム・インプルーブメント」裁判 

テイム・アレンが主演するABC人気テレビ番組「ホーム・インプルーブメント」。原告は番組のプロデューサーであるウインド・ダンサー・プロダクション・グループ。被告はウオルト・ディズニー。原告の主張は、ディズニーが子会社であるABCに、人気テレビ番組を不公正に安い値段でライセンスし、収益からのパーセンテージを受ける原告の権利を侵害したというものでした。1997年に訴訟が始まりました。 ウインド・ダンサーはディズニーとの間で、テレビ番組「ホーム・インプルーブメント」を制作し、供給する独占的な契約を1990年に結んでいました。ウインド・ダンサーのプロデューサーらは、番組からの収益からパーセンテージを受けることになっていました。ディズニーはABCにこの番組の放映権をライセンスしますが、この時点では、ABCはディズニーの子会社ではありませんでした。 「ホーム・インプルーブメント」は大ヒットとなり、水曜日の夜9時の枠をとります。その後、1995年にディズニーはABCを買収します。翌年「ホーム・インプルーブメント」の放映権の更新契約の時期がきた時、ディズニーは、ウインド・ダンサーの反対を押し切って、ABCに市場価格よりも安値でライセンスしました。ライセンス料を安価に合意することにより、原告がうけとるべき収益を操作したというのが原告の主張でした。 ABCはディズニーの子会社であり、ディズニーのコンテンツを優先的に、有利な価格でライセンスを受けています。身内会社間でのライセンス契約で問題となるのは、何が適正な市場価格か、市場価格よりも低いライセンス料で契約することは、直ちに原告の権利を侵害することになるのか。。。。「ホーム・インプルーブメント」裁判は今年の始めに和解しています。そして同じような訴訟が続きます。 

5.「Xファイル」裁判 

高視聴率のSci−Fiドラマ「Xファイル」。FBIエージェント・モルダーを演じるディビッド・デュコブニーが裁判の主演も演じています。「Xファイル」は、20世紀フォックスが制作し、世界中で放映され、日本でも人気番組となりました。アメリカではニュース・コープのケーブル会社であるFXで、フォックスがもつシンジケーションで再放送され、ビデオ・ゲームはフォックス・インターアクティブで制作され、書籍はニュース・コープの子会社であるハーパーコリンズで出版され、CDはフォックス・ミュージックで、グッズはフォックス・ライセンシングで販売されています。すべてのメディアが身内会社間でライセンスされています。 「Xファイル」は現在までに14億から15億ドルの収益を生み出していると予想されています。ディビッド・デュコブニーは、フォックスとの間で収益参加の契約を結んでいますので、「Xファイル」が生み出すネット収益からパーセンテージを受ける権利をもっています。 原告の主張によると、フォックスは競争会社と交渉せずに、フォックスの関連ネットワークに「Xファイル」のテレビ放映権を市場価格よりも低いライセンス料で契約し、8億ドルにわたる収益を圧縮した。ケーブルテレビでの放映権についても同じようなライセンスを行い、原告の受けるべきネット収益のパーセンテージを操作した。また、ハーパーコリンズに対し、不当に安いロイヤルティで出版権をライセンスし、フォックスはエージェント料として302,463ドルをロイヤルティから差し引いた。海外での放映権についても、BスカイB、スターTVに市場価格よりも不当に低いライセンス料でライセンスを与え、ライセンス料の不払いについても何らの措置をとらなかったと主張しています。 フォックスは、「Xファイル」のプロデューサーであるクリス・カーターに400万ドルの口止め料を支払い、原告への支払いを操作したと言われています。 今年8月12日に提訴された「Xファイル」訴訟。ディビッド・デュコブニーが主演する「Xファイル」はネットワーク、ケーブル、さらにシンジケーションでの再放送が続きます。

 6.巨大化でコンテンツ独占 

コングロマリット化は、コンテンツをあらゆるウインドウで二次利用することを目的としています。特にテクノロジーの発展により、DVD、インターネット、ビデオ・オン・デマンドなどのあらたなウインドウが配給システムそのものを変えつつあります。ハリウッド・スタジオがすべてのウインドウを傘下に入れることにより、コンテンツの最大利用を図っていこうとするのは時代の流れでしょう。コンテンツとウインドウを押さえたスタジオがどういった世界展開をしていくのか。巨大化したハリウッド・スタジオの動きに日本の企業はどのように対応していくのでしょう。

映像新聞2000年8月28日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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