オプション契約

 

1. はじめに

映画の基本となるのは、ストーリーだ。ストーリーは、オリジナルのものもあれば、すでに出版されている原作に基づくものもある。出版物からストーリーを展開させ、映画化(テレビ化する場合も同様)する場合、どういった点に留意すべきか。海外配給を予定しているプロデューサーはもちろんのこと、映画化を考えている作家の方々に気をつけていただきたい法律問題について解説する。

2. 映画化権の取得

文学や小説、漫画、コミックのキャラクターなどを映画化する場合、プロデューサーは権利者から映画化に必要な権利を取得しなければならない。映画製作に必要なプロセスのひとつだ。出版物の映画化権は通常、原作者が保有している場合が多い。原作者が死亡している場合や、権利を譲渡している場合もありうるので、著作権登録を調べるとともに、作家のギルドや出版社に確認するのが良い。まず、権利者を見つけ出したら、映画化権取得の交渉をおこなう。映画化権の値段はピンからキリまでだ。ハリウッドでは、「ペリカン文書」や「法律事務所」などで有名なジョン・グリシャム、「ジュラシック・パーク」のマイケル・クライトン、「グリーン・マイル」のスティーブン・キングなどのトップ・クラスは、ミリオン・ダラー単位の権利金を交渉することができるが、クレジット歴のない新人作家の場合はそういう訳にはいかない。製作費予算や力関係が値段を決める。

3. オプション契約

映画化権の値段としては、製作費1,500万ドル前後を予定する劇場用映画の場合で、20万ドルから40万ドルぐらいが目安となる。しかし、プロデューサーは映画化権を全額前払いすることはない。初期費用をなるべく低く抑える必要があるからだ。どういった契約を結ぶかと言うと、プロデューサーは原作者との間で「オプション契約」を結ぶ。「オプション契約」というのは、ある原作の映画化権を取得するオプションを買う契約である。簡単に言うと、映画化権の売買予約だ。しかし、オプション契約では、最初の段階で、映画化権の値段、収益参加、クレジット、留保する権利などの細かい条件を決める。たとえば、12ヶ月のオプション期間で、ある原作の映画化権を取得するオプション契約を結んだとしよう。プロデューサーは、オプション期間中に、脚本家を雇い、脚本を書かせる。と同時に、監督、俳優たちのキャスティングを準備する。製作費の調達を行う。オプション期間を更新することも可能だ。オプションの更新が合意されている場合には、更新料を支払い、ディベロップメントを継続する。オプションの代金は、映画化権の値段の10%が標準だ。オプション権を行使すると、この10%は、映画化権の値段に充当される。プロデューサーは残りの90%を原作者に支払う。更新料が充当されるかどうかは交渉次第だ。オプション契約は独占的な契約なので、その期間内は、原作者は二股かけることはできない。

4. オプション権の行使

  もし、何らかの理由で、プロデューサーが途中でディベロップメントを断念した場合、映画化権そのものが必要なくなる。オプション権が行使されなかった場合、原作者はオプション代金を返還する必要がない。また、オプション権は消滅するので、原作者は第三者との間で、映画化権の販売交渉をすることができるようになる。複雑なのは、プロデューサーがオプション権を行使して、映画化権を買い取ったが、一向に映画化の準備をしない、といった場合だ。原作者としては、代金を受け取って、映画化権を売り渡しているので、何もすることはできない。しかし、原作者が映画化を強く望んでいる場合や、他のプロデューサーから映画化したいという申し出がある場合には、どのようにしたら良いか。ハリウッドでは、「ターンアラウンド」という条件を決め、ディベロップメントに費やした費用を返済することを条件に、映画化権を返してもらうことがある。前のプロデューサーがディベロップメントに使った費用を返済した上に、あらたにディベロップメントを行うので、製作費は予定以上に膨れ上がることになる。ハリウッドではターンアラウンドになったプロジェクトをよく見かける。「バットマン」や「E.T.」などがそれだ。「バットマン」は最初はポリグラムでディベロップメントされたが、ターンアラウンドにかけられ、最終的にはワーナーブラザースで製作・配給され、大ヒットとなった。「E.T.」は、コロンビアからユニバーサルにターンアラウンドされた。なぜ、ターンアラウンドが起こるかというと、スタジオでは、製作担当者が変わると、前任者のプロジェクトがいつも引き継がれるとは限らないからだ。製作過程で頓挫したプロジェクトは、そのまま消えていくか、または次の製作場所を求めてターンアラウンドする。

5. 譲渡する権利・留保する権利

プロデューサーが原作者から映画化に必要な権利を買い取る場合、映画を製作する権利はもちろん、劇場配給権、ホームビデオ権、有料・無料テレビ放映権、サウンドトラックの権利、マーチャンダイジングの権利、などすべてのメディアで映画を使用する権利を買い取る。このなかに、映画のリメイクの権利、続編を製作する権利を含むかどうかを明確にする必要がある。以前、「風と共に去りぬ」の続編をつくる権利をめぐって裁判となったことがある。原作者であるマーガレット・ミッチェルは、製作会社(のちにMGMに吸収される)に対して、5万ドルで、「風と共に去りぬ」の映画化権を売った。1936年のことである。彼女の死後、財産管理人となった信託銀行が、MGMを相手に、「風と共に去りぬ」の続編を映画化する権利を争った。裁判で、1936年の契約には、続編の映画化権を含んでいないことが明確になった。その後1994年、「風と共に去りぬ」の続編がテレビ映画化され、「スカーレット」というタイトルで、CBSで放映された。その時、製作会社が財産管理人に対して支払った続編映画化権の代金は、900万ドルと言われる。「風と共に去りぬ」は、長い期間にわたり利益を生み続けるキラーコンテンツの代表と言えよう。 別の裁判例を紹介しよう。「カサブランカ」の続編をめぐる争いだ。「カサブランカ」という映画は、「Everybody Comes to Rick’s」という演劇が基になっている。1942年、ワーナーブラザースは、その劇作家らに2万ドルを支払い、原作権を買い取った。1983年、ワーナーブラザースは、「カサブランカ」の続編を製作し、NBCで放映した。原作者である劇作家らは、ワーナーブラザースとNBCを相手に、自分たちが続編を映画化する権利を留保していると争った。しかしこの裁判で、1983年の契約では、続編を含む、すべての権利がワーナーブラザースに譲渡されていたことが確認された。

6. あらたなメディア

DVDの権利、インターアクティブの権利、インターネットで配信する権利など、あらたなメディアの出現で、コンテンツを二次使用するチャンスが増えた。だれがどこまでの権利を保有しているのか争われることが多い。原作者が映画化権を売る場合、どこまでの権利を手放しているのか、どの権利を留保しているのか、当事者間の合意をできるだけ明確に契約書に記載することが重要だ。

映像新聞2000年8月28日掲載  (c) 2000 Midori Mahl All Rights Reserved

 
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